今月の漢方
8月 熱中症予防~体の中から夏を涼しく~ 続き
ようやく数日前に関東地方も梅雨が開け、いよいよ本格的な夏がやって来ました。
「白虎湯(びゃっことう)」や「白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)」が熱中症予防に効果があり、体の中から暑い夏を涼しく過ごせる一助となりますことは、前回申し上げました通りでございますが、今月は、この白虎湯類の意外な他の一面につきまして、ご紹介させて頂こうと思います。
まず、この処方は明治以前には、どちらかと言えば精神的に高揚しやすいタイプの人を落ち着かせる目的でも使用されておりました。確かにこの白虎湯類を服用された方で、よく「そういえばイライラしなくなりました。」 「子供を怒らなくなりました。」と言う方がおられます。(但し、この白虎湯類は、現在この症状に対して、目的として使用することは認められておりません。)
精神的、神経的に落ち着かせる目的で現在使用が認められている漢方処方には、「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」 「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」 「抑肝散(よくかんさん)」 などがございますが、これらの使い分けにつきましては、また稿を改めまして申し上げたく思います。
次に、白虎湯類の本質であります「体の熱を冷ます」という事につきまして、もう少し詳しく。と申しましても、この「熱」は体温計で測定される所謂「発熱」ではございません。自覚的には「いつも熱っぽい。」という感覚であり、他覚的には、例えば握手したときに「この人の手は気持ち悪いほど温かい。」というような熱感であります。
いずれにしましても漢方では、この状態を「熱がこもっている」とみます。熱がこもっているといろいろな症状が起こります。例えば湿疹とかの皮膚病であります。湿疹の治療には、それはステロイド外用剤の塗布も必要であります。抗アレルギー剤の内服も必要でありましょう。しかし、この体内の「熱」が顕著である人であるならば、これを原因のひとつと考え、白虎湯類で冷ましてやることにより、驚くほど治りが早いものであります。
子供のアトピーなどについて考えましても、元来子供というものは、漢方の考え方でいえば純陽の性質をもつもので、体内で盛んに産生される熱は、出来るだけ外に発散させるべきであります。それを寒がりの大人の発想で、手から足まで、おくるみで赤ちゃんをすっぽりくるむものですから、熱が発散されずに体内にこもり、アトピー性皮膚炎なるものの原因のひとつにもなってしまうのではないかと思うのであります。
次回は、白虎湯類の成分の主薬であります「石膏」について申し上げます。 7月31日記